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過活動膀胱に対するボツリヌス療法
COLUMN

当院では、過活動膀胱に対する治療法として、
「ボツリヌス毒素(ボトックス®)膀胱壁内注入療法」を実施することが可能です。

1.過活動膀胱とは?

過活動膀胱とは、膀胱が敏感になって、尿が十分にたまっていなくても、急激に強い尿意におそわれておしっこが漏れそうになる、またはトイレまで間に合わずに漏れてしまう状態をいいます。冷たい水に触れたり、水の流れる音を聞くと尿意を感じてしまう方もおられますが、特にきっかけがなくてもご本人の意思とは関係なく突然強い尿意におそわれる方もおられます。

近年の国内の調査では、過活動膀胱に悩む患者さんの数は非常に多いことが判明しており、20歳以上で11.9%,40歳以上で13.8%の方が過活動膀胱とされ、高齢者であるほど頻度が高くなり、現在1000万人以上の患者数がいると推測されています。

過活動膀胱の治療はまず生活指導(水分の取り方や今飲んでいるお薬の見直しなど)、行動療法(尿意切迫感を少しだけ我慢する)や飲み薬による治療を行います。しかしこれらの治療でよくならない場合があります。

2.ボツリヌス療法とはどんな治療?

過活動膀胱の治療を続けている患者さんの中には、生活指導や行動療法を行っても改善が見られず、通常の薬物療法では効果が不十分であったり、副作用のために治療が継続できない場合があります。

ボツリヌス療法は、そのような薬物療法が無効あるいは使用できない過活動膀胱の患者さんに適用される治療法で、膀胱の筋肉を緩める薬(A型ボツリヌストキシン)を膀胱の壁(筋肉内)に直接注射する治療です。ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法は2000年に初めて海外で報告され、その高い有効性と安全性から、欧米を中心に世界90ヵ国以上で広く行われている治療です。

日本でも2020年4月に健康保険が適応となり、当院でも日帰り手術として、ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法を行っております。

3.治療のメカニズムは?

過活動膀胱は、膀胱の筋肉が過敏に収縮を起こしてしまうことで、頻尿や尿もれなどの症状を引き起こします。治療に使用されるA型ボツリヌス毒素には筋肉を緩める作用があり、この薬剤を膀胱の筋肉に直接注射し、膀胱の異常収縮を抑えることで、過活動膀胱に伴う種々の症状(突然起こる強い尿意、尿もれ、昼間や夜間の頻尿)の改善が期待出来ます。

なお、A型ボツリヌス毒素製剤の有効成分は、ボツリヌス菌によって産生されるA型ボツリヌス毒素であり、ボツリヌス菌そのものではありませんので、ボツリヌス菌に感染する心配はありません。

4.治療の方法は?

「ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法」は、おしっこの出口から膀胱鏡という細いゴム製の内視鏡(カメラ)を挿入し、膀胱の壁(筋肉)の中にA型ボツリヌス毒素製剤(ボトックス®)を注射します。細い針でボツリヌス毒素を20箇所に分けて注入します。手術時間は10~20分程度です。実施に際しては、膀胱局所麻酔(麻酔薬の膀胱内注入)で行ないます。

5.治療の効果はどれくらい?

効果の程度や持続期間は患者さんによって個人差がありますが、国内で行われた臨床試験では、1日の尿もれの回数が平均で3.6回減少(27%の患者さんで完全に消失)し、排尿回数は平均で1.7回減少しました。症状の改善は通常、治療後2~3日で現れ、4~8ヵ月にわたって持続します。時間が経つにつれて薬の効果が弱くなっていきますが、再度治療を行うと同様の効果が現れます。前回投与より4ヶ月以上の間隔を空ければ再投与が考慮されますので、効果が薄れてきたら、再投与の時期について医師にご相談下さい。

6.治療の副作用は?

ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法は十分安全な治療法であることはわかっていますが、国内で行われた臨床試験では、治療後に下記のような副作用が報告されています。

肉眼的血尿(2%程度)

膀胱の壁に針を刺して注射をするため、一時的に血尿がでることがあります。通常多くの場合は数日でおさまりますが、血尿がひどい場合には改めて止血のための処置をする必要があります(極めて稀です)。

尿路感染症(5%程度)

尿の出口から細菌が膀胱内に侵入することで膀胱炎、前立腺炎、腎盂腎炎などが生じる(尿が濁る、頻尿、排尿時痛、発熱、悪寒、血尿などの症状が出現する)ことがあります。

排尿困難、残尿の増加、尿閉(約5〜9%)

自分で尿を全部出しきれず、膀胱内に尿が残ってしまうことがあります。尿の残りが多くなった場合や、膀胱内に尿が大量に溜まっているのに全く出せない状態(尿閉)になった場合には、改善するまで自己導尿(自分自身で尿道にカテーテルを挿入し、尿を排出させる手技)を行っていただく可能性があります。

薬によるアレルギー反応(1%以下)

万が一お薬に対するアレルギー反応が出現した場合、吐き気、蕁麻疹、発疹、気分不快などの症状が出現することがあります。重篤な場合には、喘息発作やアナフィラキシーショック(血圧低下)に至る場合があります。

治療後に何らかの副作用が出現した場合には、クリニック代表までご連絡いただき、出現した症状などをお話ください。適切な対応をさせていただきます。

7.ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法の適応となる患者さん

現在行っている治療法では症状を改善させることが難しい、または副作用のために治療の継続が困難な患者さんが対象です。

過活動膀胱に対するボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法をおすすめする方

  • 急におさえられない尿意が起きる
  • 起きている間、頻繁にトイレに行き、それが辛い状態
  • 急に尿意が起こり、トイレに間に合わず、失禁してしまう
  • 睡眠時に尿意で目が覚めてトイレに行き、それが辛い状態
  • 過活動膀胱と診断された後、投薬治療や行動療法で、改善が見られない方

また、もしボツリヌス療法の副作用によって、自力での排尿が難しくなった時のために、ご自身で(または同居されているご家族の方)導尿ができることが必要です。

8.治療前の注意点

以下の条件に当てはまる方は、ボツリヌス療法を受けることが出来ません。

ボツリヌス療法を受けられない方

  • 現在、未治療の尿路感染症がある方
  • 尿を出し切れない症状(残尿)があるのに、自己導尿などの対処を行なっていない方
  • 全身性の筋力低下を起こす病気(重症筋無力症、ランバート・イートン症候群、筋萎縮性側索硬化症など)がある方
  • 妊娠中あるいは授乳中の方、妊娠している可能性のある方
  • 過去にボツリヌス療法を受け、発疹などのアレルギーを生じることがわかっている方
  • 副作用で自己導尿が必要になった場合に、導尿の実施に同意いただけない方

以下の条件に当てはまる方は、ボツリヌス療法を受ける前に医師にお知らせ下さい。

ボツリヌス療法を受ける際に注意が必要な方

  • ボツリヌス療法を受けた経験がある方(そのとき治療した病気の名前、治療時期、投与量をわかる範囲で担当医に伝えてください)
  • 現在、なんらかの薬を使用している方(一部の抗生物質や筋弛緩薬、精神安定剤など、ボツリヌス治療と同時に使用する場合は注意を要する薬があります。また、血液をさらさらにする薬(抗血小板薬・抗凝固薬)を服用中の方は、注射による出血を防ぐため、治療前後に薬の飲み方を調整する場合があります)
  • 喘息など慢性的な呼吸器疾患のある方

9.治療後の注意点

以下はボツリヌス療法を受けたあとの注意点です。

  • 治療当日のみ、入浴や激しい運動、飲酒など、血液の流れを増加させる行為は控えてください。翌日以降は、通常どおりの日常生活を送れますが、血尿が続く場合は改善するまで控える必要があります。
  • 女性は治療後2回の月経が終わるまで、男性は治療後3ヵ月が経過するまで、避妊に必要な措置をとってください。
  • ほかの医療機関や診療科を受診する際には、過活動膀胱に対してボツリヌス療法を受けたこと、および治療時期をわかる範囲で医師に伝えてください。
  • ボツリヌス療法をくりかえし行った場合、きわめて稀に体内で抗体がつくられ、それまで得られていた治療効果を得られなくなることがあります。複数回の治療を受けたのち、明らかに以前より効果が弱まっていると感じられたら、その旨を医師に申し出てください。

10.ボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法の流れ

Step1まずはお問い合わせ
ご相談いただいた内容をもとに、現在の患者さんの状況が、ボツリヌス療法の適応となるかどうかを総合的に判断します。

Step2術前検査、治療についての説明と同意
術前検査として、尿検査や採血、残尿量の測定、感染症などの検査を行います。術前検査の結果を踏まえて、医師よりボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法に対する同意説明を行います。A型ボツリヌス毒素製剤(ボトックス®)は患者様毎に登録が必要な薬剤ですので、あらかじめ手術日を決め、薬剤の登録と準備をします。看護師からは、術前オリエンテーション(治療当日の流れや持ち物などのご説明)を行います。

Step3治療当日
尿検査を行った後、医師より術前の診察があります。手術に際して問題ないと判断されましたら、術衣に更衣後、点滴を開始します。血圧や脈拍、酸素飽和度を測る機械を装着した後、おしっこの出口から管(カテーテル)を通し、尿道や膀胱に局所麻酔を行います。
麻酔が染み渡るまで20分ほど休んでいただいてから、内視鏡(カメラ)を膀胱内へ入れていきます。
膀胱の壁内(筋肉)の中に、細い針を使って20箇所にボツリヌス毒素を注射します。注射は10~20 分程度で終わります。
注射後は処置室にご移動いただき、経過観察を行います。この間に、排尿をしていただき、血尿の具合と排尿状態に問題無いことを確認いたします。医師が問題ないと判断してから、ご帰宅いただけます。

Step4治療後の診察
手術から1週間後に、尿検査や残尿測定などを行うため再診していただきます。

11.治療にかかる費用(負担割合別)

負担割合 料金(窓口負担の目安)
3割負担 約5万円
2割負担 約3万円
1割負担 約1.5万円

12.おひとりで悩まず、まずはお気軽にご相談下さい。

トイレの不安のために外出を控えるなど日常の活動を制限し、生活の質が低下してしまっているにも関わらず、医師への相談をためらって我慢してしまう方が少なくありません。過活動膀胱の症状の多くは治療で改善できる可能性がありますので、「年だから仕方ない」、「恥ずかしい」とあきらめずに、どんな些細なお悩みでも、まずはお気軽にご相談ください。

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